Jアラート小説「落日~Jアラートが響く街~」

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はじめに

本小説はフィクションです。
実在の人物・団体・出来事とは一切関係ありません。

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この平和な日々が、ずっと続くと思っていたー。
毎日、当たり前のように友達と笑い合い、
家では妹と他愛の無い言い争いをする。

そんな、日々が。
ずっとずっと、続いていくものだと思っていた。

けれども違った。

何気ない日々がどんなに幸せなものだったかー。
何の変哲もない”ありきたりな1日”が
どんなに大切なものだったか。

こうなるまで、気づくことが出来なかった。

今、やっと分かった。
何気ない日々が、どんなに素晴らしいものだったか。

でも、もう遅いー。

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1・日常

朝ー。

彼は、いつものように
朝食に、適当なパンを食べながら、
妹と他愛の無い言い争いをしていた。

「ちょっと、モノ散らかさないでよ」
雑に登校の準備をする兄に、妹は呆れ顔で言う。

高校2年生の
間宮 隆志(まみや たかし)は、
今日もいつものように、慌しく登校の準備をしていた。

リビングで流れているテレビは、
昨日起きた事件の話ー。
天気の話ー。
海外の芸能の話ー。

色々な話題を流している。

その中で、最近話題の
”Jアラート”のことも流れていた。

災害時などの緊急警報として用いられるもの。
その全国一斉訓練も近いうちに行われる。

「--怖いよね」
妹の美咲が言う。

「はは、ビビリだな美咲は」
隆志はニヤリと笑い、
美咲を茶化すようにして続けた。

「何も起きやしないよ。
むしろ、Jアラートがなって
朝起こされるほうが迷惑だって。

友達の親戚も怒ってたらしいぜ!
貴重な睡眠時間をどうしてくれるんだ!ってさ」

隆志が言うと、美咲は
それでも心肺そうに・・・

「うん…」
と呟いた。

「はは、大丈夫だって、心配するなよ
何かあっても、俺が守ってやるって!

それに ホラ、あれもあるだろ?
なんだっけ・・・
ラック3だっけ??」

隆志が言うと、美咲はため息をついて
呆れ顔で言った。

「PAC3(パック3)でしょ。
 そんなことも知らないの?」

妹に指摘されて、隆志は苦笑いしながら

「はは、パックでもラックでも何でもいいよ。
ま、使う機会もないと思うけどさ」

と妹に言った。

「---もう 能天気なんだから」
そう言って、妹の美咲は洗面台の方へと歩いていった。

隆志は時計を見て、「そろそろ行かなきゃな」と
呟いて、母親に”行ってくる”と声をかける。

そして
「あ、今日、由香里(ゆかり)と放課後
ショッピングしてくるから遅くなる!」

とつけ加えて、玄関から飛び出した。

2・異変

放課後。

街中を彼女の由香里と歩きながら、
隆志は幸せなひと時を味わっていた。

彼女の由香里は、
高校で生徒会副会長を務める人物で、
とても真面目で、かつ可愛らしい子だ。

いつも心優しく、穏やかな性格の持ち主で、
クラスでも人気が高い。

とある行事で一緒に仕事をしたのをきっかけで、
隆志は由香里と付き合うことになったのだった。

「---朝さ~、妹がJアラートがどうこう言っててさ」

隆志が笑いながら言う。

ビルの壁面についている大型ディスプレイが
バラエティの番組を流している。

「--あぁ、最近怖いよね」

由香里が言う。

「--由香里もそんなこと言ってるのかよ!
大丈夫だって!

 ほら、国が色々と防衛の準備してるしさ、
 絶対、公になってない、秘密兵器みたいのがあるって!」

隆志がニヤニヤしながら言うと、
由香里は控えめな笑みを浮かべて、

「私は、国の偉い人は
 もりそば かけそば しか言ってない気がするけどなぁ…」

由香里が言う、
確かにもり とか かけ とか言ってた気はする。

「---私は、、不安の方が大きいかな」
由香里が悲しそうに言う。

「----大丈夫。俺が守るから」

隆志が言ったその時だった。

街中に不気味なサイレンが鳴り響く。

異様な音。

通行人たちが足を止めて周囲をうかがっている。

「---な、、なんだなんだ」
隆志がキョロキョロしながらいうと、
由香里が言った。

「ねぇ、、これ、Jアラートじゃない?」
由香里が言う。

「あ、そっか、全国訓練やるとか言ってたよな!」
隆志が言うと、
由香里が顔色を変える。

「…全国訓練は…今日じゃない…」
続けて、2人のスマホが、、
いや…
周囲のスマホが一斉に音を立てた。

”エリアメール”

「ちょ…なによ!何なの!?」
由香里がうろたえている。

いつも笑みを絶やさず、穏やかな由香里の
焦る表情を見て、隆志も次第に焦りを感じる。

ビル壁面のディスプレイの画面が切り替わる。

”飛翔体”がどうこう
言っている。

「---どうせ上空通過だよ。
心配するなって、由香里。」

そう言って笑う隆志。

だがー、
由香里の表情は凍り付いていた。

ディスプレイの方を指さす。

「---!!」
隆志もディスプレイの方を見て凍りついた。

”飛翔体”の落下予測地点はーー
この辺だった。

「な…嘘だろ…」
隆志はそれしか呟けなかった。

政府関係者が落ち着いて行動するように呼びかけている。
地下に、建物内に逃げるようにと。

周辺でパニックが起きた。

3・落日

「---ひっ…ね、、ねぇ、、、どうすればいいの?」
由香里が焦った様子で隆志の袖を引っ張る。

「--ど、、どうすりゃって…」
隆志がモニターを見る。

PAC-3の準備が行われているようだ。

続いて周囲を見渡す。

周囲では悲鳴をあげた人たちが、
パニックを起こして我先にと、逃げ出し始めている。

車のクラクションが鳴り響き、
車同士の追突事故が起きるー。

殴り合っている人が居るー

泣き叫んでパニックを起こしている人が居るー

「なんだよコレ・・・
なんなんだよ・・・」

隆志は周囲を見渡しながら呟いた。

その光景は
まさにー”地獄”

穏やかな日常は
一瞬にして壊された。

繁華街の中心を歩いていた人たちの誰もが、
いつものような穏やかな一日を送れると思っていたはずだ。

それが、一瞬にして壊された。

「---ねぇ!隆志!なに突っ立ってんのよ!
どうするの私たち!」

由香里が泣き叫んでいる。

こんな由香里の姿ー
見たことが無い。

彼女は何でも出来て、
いつも落ち着いていてー
そう思っていた。

けれどーー。

今一度大型ディスプレイを見る。
PAC-3の準備に手間取っていて間に合いそうにない。
先行して放たれた別の迎撃システムは命中しなかったー

「ダメじゃんか…PAC3…」
隆志はそう呟いた。

そしてー
「ホラ!地下に行こう!」

自分だって怖かった。
けれど、いつも優しい由香里が、泣いているのを見て、
隆志は、自然と行動を起こすことができた。

暴動ー

パニックー

混乱ー

映画だけの世界だと思っていた。

けれど
違った。

現実はこうもー。

「----そこの地下に行こう!」

デパートの店内に、由香里の手を引いて
飛び込んだ雅史。

「---わ、、わたしたちどうなるの?」
由香里が周囲を見渡しながら言う。

デパートの地下には大勢の人間が集まっていた。

由香里を落ち着かせた
隆志は呟く

「どうなるのかは、俺が聞きたいよ…」

隆志はスマホでニュースを見る。

迎撃はーーー
失敗した。
着弾まではーーーあとーーー

そのとき、隆志のスマホにLINEで連絡が入った。

妹の美咲からー。

その内容はーーー。

地下に逃げようとしたけど、
他の人に押されて転倒して動けない

というものだった。

場所は、すぐ近く。
そういえば妹も今日、友人とこの辺りで買い物を
すると言っていたー。

何かあっても、俺が守ってやるって!

そうだー
朝、約束した。

着弾までもう時間が無い。
行って、戻ってくるー。

間に合うのか?
そもそも、ここに居ても助かるのか?

隆志は不安を抱く。

けれどー。
約束した。

「----由香里。
俺、ちょっと、もう一度外に行ってくる」
隆志は言った。

「え?そ、、外に!?どうして」
由香里が言う。

だが、説明している時間は無い。
”飛翔体”が迫っている。

「---信じて、待っててくれ…な?」
隆志は自分の鞄についていたキーホルダーを
外し、由香里の手に握らせた。

「---隆志」
悲しそうな由香里に、隆志は微笑みかけて、
そのまま走り出した。

着弾まであと何分か。
いや、そんなことはどうでもいい。

ただただ、全力で走る。
人気が無くなった繁華街を走る。
着弾の時間は、着実に迫っている。

あのまま地下にいたほうが良かったのかもしれない。

もっと、もっと、このことを真剣に考えておいたほうが
良かったのかもしれない。

自分たちもー

そして政治家でさえも

”どうせ、起きないだろう” と
そう、思っていたのかもしれない。

もりそば喰ってる場合じゃなかった。

Jアラートで朝起こされて、なんて怒ってる場合じゃなかった。

「----美咲!」
足を押さえて這いずっている妹のもとにたどり着いた。

そのときーーー
上空で不気味な音が聞こえた。

今まで聞いたこともない音。

「---お、、、お兄ちゃん…」
涙ぐんでいる美咲。

上空から、何かが降り注ぐ。

「---逃げて…!」
時間が無いことを悟った美咲が避けぶ。

けれどーー

「約束しただろ!何があっても守るって!」
隆志は、妹に覆いかぶさった。

こんなことしても意味はないかもしれないけれどーーー

でも、それでも彼は
大切なものを守りたかったー。

彼は思うー。

この平和な日々が、ずっと続くと思っていたー。
毎日、当たり前のように友達と笑い合い、
家では妹と他愛の無い言い争いをする。

そんな、日々が。

ずっとずっと、続いていくものだと思っていた。

けれども違った。

何気ない日々がどんなに幸せなものだったかー。
何の変哲もない”ありきたりな1日”が
どんなに大切なものだったか。

こうなるまで、気づくことが出来なかった。

今、やっと分かった。
何気ない日々が、どんなに素晴らしいものだったか。

でも、もう遅いー。

 

一瞬にして壊された日常。

地下で由香里はただひたすらに祈る。

妹に覆いかぶさった兄は、
ただ、妹の無事を祈るー。

永遠にも思えるその時間ー。
彼らがその瞬間に思ったことは
何だったのだろうー。

それを知る機会が、訪れてはならない。
絶対に。

おわり

あとがき

物騒な最近の情勢。
何事も無いことを祈るばかりですね。

今一度、真剣に考えてみるのも
必要なのかもしれません。

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